学薬アワー「自然毒きのこ・魚介類等による食中毒」 [学薬アワー] [薬学の時間]
2010/09/17(金) 13:31

薬学の時間
2010年8月24日放送分
学薬アワー「自然毒きのこ・魚介類等による食中毒」
日本学校薬剤師会常務理事
横田 勝司

 本日は、ふぐ毒以外の自然毒を対象とした食中毒についてお話を進めて参ります。
 平成元年(1989年)から平成20年(2008年)までの20年間に食中毒で亡くなった総死者数は、144名(年間平均7.2名)で、その内、動・植物による自然毒死亡者数は94名(65.27%)と最も多く、約三分の二を占めます。その第1位がフグの58名(2.9名/年間)、次いでキノコの28名(1.4名/年間)で、この二つは突出しており、その他としてトリカブト、グロリオサの球根、イヌサフラン等の8名(0.4名/年間)であります。


 Ⅰ.植物性自然毒は、「毒きのこ」、「食用植物の有毒成分」、「有毒植物」の三つのグループに大きく分類されます。
 「毒きのこ」について;わが国の気候と風土は、きのこ類の生育に適しているため約1000種類~2000種類存在し、その内、毒きのこの範ちゅうに入るものは約30種類程度であります。いずれも毒きのこの誤食による食中毒が9月~10月を発生ピークとして起こっています。主な毒きのことしては、ドクツルタケ、クサウラベニタケ、ツキヨタケ、イッポンシメジ、テングタケ、ベニテングタケ、ドクササゴ、ワライタケ、シビレタケなどが挙げられます。中毒症状は摂食した時のきのこの種類によって異なり、①の消化器系障害並びに②の神経系障害を示す二つに大別することができます。①の消化器系障害の胃腸障害型としては嘔吐、腹痛、下痢等を起こすツキヨタケやイッポンシメジ(イルジン)があり、コレラ様症状型として胃腸カタル症状後に痙攣、虚脱、昏睡等を起こすタマゴテングタケやドクツルタケ(アマトキシン、ファロトキシン)が挙げられます。次に②の神経系障害の神経障害型としては、痙攣、昏睡、縮瞳、子宮収縮等を起こすテングタケ(イボテン酸)、ベニテングタケ(ムスカリン)があり、脳症型としては中枢神経の異常興奮、麻痺、幻覚、酩酊状態、狂乱等を起こすワライタケ、シビレタケにはシロシビン、シロシンを含有します。このシロシビンとシロシンは、神経伝達物質セロトニンと拮抗し、異常興奮と麻痺を起こすことから幻覚きのこ「マジックマッシュルーム」として平成14年(2002年)6月6日より麻薬に指定されています。これらの毒きのこを摂食15分~60分後には幻覚などの症状を発現します。また、数週間~数か月後に飲酒や睡眠不足、他の薬物の服用などによって突然幻覚や妄想などを再燃する(いわゆるフラッシュバック現象)を起こすことがあるので十分注意する必要があります。なお、誤食きのこの主なものとしては、ハリタケやアンズタケと類似するドクササゴ、ウラベニホテイシメジに類似したクサウラベニタケ、ヒラタケやシイタケと類似したツキヨタケなどを挙げることができます。
 「食用植物の有毒成分」としては、アミグダリン、ソラニン・チャコニンなどです。
 青酸配糖体を含有する代表的な植物は、青梅、アーモンド、アンズ、ギンナン、モモなどの種子に含まれるアミグダリンがあります。アミグダリンそれ自身には毒性がないのですが、体内でβ-グルコシダーゼの酵素によって加水分解を受け、グルコースとシアン化水素を遊離します。このシアン化水素は電子伝達系シトクロムオキシダーゼの3価の鉄イオンに結合して、シトクロムオキシダーゼを阻害することで細胞の呼吸を低下させ、嘔吐、吐き気、めまい等から死に至ることがあります。
 ソラニン・チャコニンはアルカロイド配糖体で、ジャガイモの発芽部分と緑化した表皮に多く貯留されているため、摂食後20分ほどで腹痛、下痢、嘔吐、めまい、倦怠感などの症状を示します。ソラニンやチャコニンは熱に対して安定(耐熱性)で、強いコリンエステラーゼ阻害(神経毒)作用や溶血作用を有します。これらのアルカロイドは水溶性のため、煮たり、蒸すことによって含有量が減少するので、調理法の工夫も食中毒防止の観点から重要です。ソラニン等による食中毒事件では、特に小学校の学校菜園で栽培したジャガイモによる事例(毎年1件以上発生)が多いので、関係する学校薬剤師は、下記の注意事項について十分な指導と助言をお願いするところです。
・ジャガイモの栽培期間が比較的短いため未成熟のものが多いこと。
・栽培中のジャガイモに日光が当たらないよう十分な覆土をすること。
・収穫後のジャガイモは冷暗所に保存し、絶対に日光に当てないようにすること。
・芽や皮の部分は完全に取り除いてから調理し、特に緑化した皮は厚くむきとること。
・「えぐみ」や「苦み」などを感じたら摂食しないこと。などです。
 「有毒植物」としては、コンフリーとジギタリス(ジキトキシン)、セリとドクゼリ(チクトキシン)、ニリンソウとトリカブト(アコニチン)ゴボウの根、ゴマの種子とチョウセンアサガオ(アトロピン、ヒヨスチアミン、スコポラミン等)、フキノトウとハシリドコロ(ヒヨスチアミン)などが主なものです。

 Ⅱ.動物性自然毒は、魚毒と貝毒の二つに大別されます。
 魚毒としては、ふぐ毒以外にシガテラ毒と、その他の魚毒が挙げられます。
 シガテラ毒は、本来カリブ海の巻貝シガを食べることによって生ずる食中毒を指していましたが、今日では熱帯、亜熱帯のサンゴ礁周辺に生息する有毒な双鞭毛藻類を餌とした草食魚介類の食物連鎖によって毒化し、発生する食中毒の総称となっています。シガテラには数種の毒素が関与しており、主たる毒素として脂溶性のシガトキシンと水溶性のマイトトキシンで、その他にパリトキシン、シガテリン、アルテリンなどがあります。シガテラ毒魚としては、ドクカマス、バラハタ、バラフエダイ、ドクウツボなど300種類~400種類に及ぶが、食品衛生の観点から十種類程度が問題とされています。わが国でも温暖化の影響によって広い範囲の海域で獲れるので注意が必要です。中毒症状は、有毒化した魚を摂食後、数時間で口唇や舌、顔面のしびれなどの神経症状、下痢、悪心、嘔吐、腹痛などの胃腸障害があります。中でもシガテラ特有の性状としては、ドライアイスに触れた時のようにピリピリと感じる感覚異常(温度感覚の失調)が現れ、これをドライアイスセンセーションと呼んでいます。
 その他の魚毒による食中毒としては、深海魚のアブラソコムツ、バラムツの筋肉部位には多量のワックスが含まれており、過剰摂食すると猛烈な下痢を起こすことから食品衛生法により販売が禁止されています。同様に、深海魚のアブラボウズも筋肉中にトリアシルグリセロール含量が高く、下痢を起こすため販売が禁じられています。サメ、イシナギ、サワラ、マグロ、メヌケなどの大型魚類の肝臓にはビタミンAが大量に含まれており、摂食によって頭痛、嘔吐、発熱、皮膚の剥離などのビタミンA過剰症の中毒症状が現れます。イシナギを食品として流通することは食品衛生法で禁止されています。
 貝毒の主なものとしては、麻痺性貝毒と下痢性貝毒があります。
 麻痺性貝毒は、赤潮を形成する有毒渦鞭毛藻類が二枚貝のアサリ、マガキ、ムラサキイガイ、ホタテガイなどに捕食され、その結果、中腸腺にサキシトキシンやゴニオトキシン類が濃縮し、蓄積されます。これらの麻痺性貝毒は、ふぐ毒テトロドトキシンと同程度の毒力をもち、耐熱性で水溶性の性状を示します。中毒症状は、摂食30分後から口唇、舌のしびれなど全身に麻痺が起こり、重症の場合では運動失調、言語障害、呼吸麻痺で死亡します。毒作用はテトロドトキシンと同様、ナトリウムチャンネルに特異的に結合することによって阻害を受け、その結果、神経の伝達が遮断され、中毒症状を示します。
 下痢性貝毒としては、オカダ酸やジノフィシストキシン等があり、二枚貝による捕食、中腸腺での濃縮・蓄積する形態は麻痺性貝毒と類似します。中毒症状は、摂食後4時間以内に下痢、嘔吐、腹痛などの消化器系障害が起こります。しかし、発熱はなく、回復早く、死者も出ていません。なお、麻痺性貝毒と下痢性貝毒は、いずれも貝毒をテトロドトキシンと同様にマウスユニットで表し、一定の基準値を超えたものについては流通、販売の禁止措置がとられています。
 終わりにあたり、日本には春、夏、秋、冬の四つの季節があり、それぞれの季節には何かと楽しませてくれます。海や山などの自然界に存在する「きのこ」や「山菜」、「魚介類」などの食材もその一つです。ご自分で採集した季節の食材には十分注意して、楽しい食事を心がけてください。