小児の咳嗽 [薬学の時間]
2012/04/13(金) 22:28

薬学の時間
2011年6月14日放送分
小児の咳嗽
長岡赤十字病院 小児科
加藤智治


小児の咳嗽
1.小児で咳が3週間以上続く場合には、積極的に原因を検討すべきである。
2.長引く咳の鑑別診断には、実際にどのような咳かを聴いて確かめることが重要である。
3.小児の長引く咳の原因としては、気道感染後の遷延性気管支炎が多い。
4.咳喘息の診断は安易に行うべきではない。
5.DPT既接種児でも百日咳に罹患するが、その診断は容易でない。


はじめに
 咳嗽は、小児科を受診するきっかけとして多い症状の一つです。小児の咳嗽で最も頻度が高いのは鼻咽頭炎で、他には気管支炎,肺炎,気管支喘息などがありますがこれらは成人でもよくみられる疾患です。一方,クループ症候群,百日咳,気道異物などは小児に多く、注意を要する疾患で,特徴的な咳嗽と臨床経過を呈します。
 また,臨床的には咳嗽が長引く場合に問題視されやすく、3週間以上持続する場合は、原因の鑑別を行うべきです。
 今回は,咳を有する小児を診療するときに気をつけなければならないポイントと,長引く咳嗽や注意すべき咳嗽の原因疾患についてお話させていただきます。

1つめは病歴聴取のポイントです。
 小児は自ら症状や経過について上手に説明できる場合が少ないので、保護者への詳細な問診が重要である。具体的には、いつから咳が出始めたのか、咳嗽が出現するようなきっかけとなるようなエピソード、例えば食事や哺乳、遊びや運動 などがあったのか尋ねます。そして咳が多い時間帯や、湿性か乾性かなど咳の性状、喘鳴・鼻汁・発熱などの随伴症状、これまでに他院を受診していれば処方薬の内容とその効果について聞きましょう。

次に、家族内や保育園などにおける感染症の流行状況を確認します。周囲に同じような咳をしている人がいる場合は、百日咳、RSウイルス感染症、マイコプラズマ感染症、まれですが結核などの鑑別も必要です。
また、既往歴として周産期の情報(早期産、低出生体重児、慢性肺疾患など)やRSウイルスなどの気道感染症の既往、予防接種歴、家族の喫煙、住宅環境、ペットの有無などについても尋ねましょう。気管支喘息やアトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患についても必ず質問しますが、逆に先入観を持って診断に結びつけてしまわないよう注意しましょう。

次に、診察時のポイントです。まずは、実際に咳を聞いてみることが重要です。新生児や乳児の百日咳や年長児でみられる心因性咳嗽では特徴的な咳嗽により鑑別可能なことが多いです。視診では、努力呼吸やチアノーゼ、また後鼻漏の有無などをチェックします。聴診では呼吸音の減弱やcrackles、wheezesなどの副雑音、喘鳴に注意しましょう。
次に主な検査です。胸部X線撮影で、肺の過膨張を認める場合には気管支喘息や急性細気管支炎を疑います。気道異物を疑う場合には吸気と呼気で撮影します。副鼻腔炎の診断は後述する遷延性気管支炎との関連で有用であり、湿性咳嗽で胸部X線撮影を行うときには、副鼻腔X線撮影(Waters法)も一緒に行うとよい。
 血液検査では、白血球数と分画、血清IgE値、RAST、百日咳やマイコプラズマなどの抗体価を測定する。

長引く咳の原因疾患
1.遷延性気管支炎(仮称)
 乳児期後半以降では気道感染症の頻度が増加する。咳嗽に鼻汁、発熱など伴う急性上気道炎は、数日から長くても1-2週間で軽快することが多い。しかし、中には急性期を過ぎても、湿性咳嗽や喘鳴が1か月以上にわたり持続することがある。病態としては急性のウイルス性気道感染後に、分泌物(痰)がうまく排出されず貯留し続け、細菌の二次感染も関与しているものと推測している。このような病像を的確に表す病名がないため、当科では以前より遷延性気管支炎と呼称し、いわゆる「乳児喘息」や「喘息性気管支炎」と区別している1)。国外では公式に認識され始めている疾患概念である2)。
 副鼻腔炎の合併が多く、両者をあわせて副鼻腔気管支炎と呼ぶこともある。副鼻腔炎の診断は耳鼻科的に行われるべきであるが、内科的には後鼻漏の確認と副鼻腔X線撮影(Waters法)で行われることが多い。上顎洞のX線濃度に明らかな左右差があったり、含気がまったくなければ診断は容易であるが、軽度の粘膜肥厚の判定には難渋する。乳幼児では上顎洞が未発達であるため、Waters法による評価は困難であると言われてきたが、当科の検討では1歳以上であれば有用と考えている3)。
 マクロライド系抗菌薬が奏効することが多い。マクロライドは、検査上感受性のない細菌が検出されるような症例にも有効な場合があり、その効果は単なる直接的な抗菌作用以外に、抗炎症作用、免疫調節作用、粘液過剰分泌抑制作用などによるといわれている4,5)。マクロライドでの改善が乏しい場合には、副作用に注意しながらST合剤に変更する場合もある。入院治療の場合には肺理学療法を併用して排痰を促す。

2.咳喘息(気管支喘息)
 最近はガイドラインの普及により、気管支喘息の診断が積極的に行われるようになった。また、治療薬の進歩も著しく、ロイコトリエン受容体拮抗薬や吸入ステロイドが広く使用され、良好に管理されるようになった。その一方で、問題点も浮かび上がってきた。
 一般に、気管支喘息や咳喘息では、β2刺激薬などの気管支拡張薬や吸入ステロイドが有効とされている。しかし、実際にはこれらの薬剤が投与され、明らかな症状の改善が認められなくても、そのまま漫然と継続されている症例をしばしば見かけるようになった。特に喘鳴や呼吸困難を認めない咳喘息を初診で診断するのは極めて困難である。詳細な検査(アレルギー検査、呼吸機能検査、気道過敏性検査など)を行えない1次医療機関では、診断的治療の意味でこれらの治療を開始することもあるが、効果がなければ喘息という診断を見直す必要がある。小児の咳喘息は、いったいどれくらいの頻度なのか、よく分からないというのが正直な印象である。
 咳喘息についてKendigの教科書6)には、「はっきりせず不明だが慢性、反復性の咳嗽の中におそらく少数だが咳喘息が含まれているのだろう」とし、症状は「典型的には乾性咳嗽が運動、冷気、たばこの煙で増悪する」という。ただし、「いくつかの研究では、咳喘息とされる患者が、気道過敏性、家族歴、気道好酸球増多などの喘息としてキーとなる条件を欠いていた」としており、今後も検討が必要な病態ではないかと考えている。

3.心因性咳嗽
 「咳」という言葉に反応するようなエヘンエヘンという咳払い様の乾性咳嗽を聴いたら心因性咳嗽を疑う。日中、特に外来受診時には激しい咳をしているが、夜間睡眠時には咳がまったく出ないのが特徴である。当科の検討では、この中の多くの症例が咳喘息と診断されていた。

4.百日咳
 夜間に増悪する連続性の咳(staccato)とその後の吸気性笛声(whoop)が特徴的である。新生児や乳児では無呼吸にも注意する必要がある。
 血液検査では著明なリンパ球増多を認める。血清診断としては百日咳凝集素価(山口株、東浜株)が有名であるが、当科の検討では問題点が多く、確実な診断法とはいえなかった。EIA法による抗PT(pertussis toxin)抗体、抗FHA(filamentous hemagglutinin)抗体をペアで測定するのが最も有用である7,8)。
最近、ワクチン既接種者での罹患が問題になっている。というのは,成人患者での診療遅延が乳幼児への感染源になっているからである。ワクチン既接種者では、夜間の息つめ発作が特徴的であり、血液検査でリンパ球増多がみられないため、見過ごされやすい。したがって,特徴的な咳があれば積極的に抗体検査を行うべきである。初期にマクロライド系などの抗菌薬を投与すると、排菌期間を短縮し、症状の軽減がみられる。

5.吸引性気管支炎(仮称)
 新生児期から乳児期にかけて、哺乳に伴い、咳嗽、喘鳴が増悪することがある。嚥下協調運動障害によりミルクが気管内に誤って吸引され、これらの症状を生じる。ただし、経口摂取時のむせや咳き込みがいつもみられるとは限らない(silent aspiration)ことに注意する必要がある。対応としてはミルクに粘稠剤を添加し、縦抱き哺乳を励行させる。当科では、このような病像を吸引性肺炎(aspiration pneumonia)に関連させて、吸引性気管支炎と呼称している1)。

6.結核
 小児の結核では家族や周囲の大人に感染源が存在することが多い。現在でも集団感染事例が後をたたない。最近、結核の診断でクォンティフェロンTB-2G(QFT-2G)が小児でも利用されるようになった。ツベルクリン反応はBCG接種の影響を受けるが、QFT-2Gではそれを考慮する必要がない。年少児での明確な診断基準については、今後も検討が必要と思われる。

注意すべき疾患
1.クループ症候群
 狭義のクループはウイルス感染による急性喉頭気管炎を指す。犬吠様咳嗽(barking cough)などと表現される特徴的な咳、吸気性喘鳴、嗄声がみられる。夜間に症状が増悪し睡眠が妨げられることが多い。エピネフリン吸入やステロイド投与などを行う。
 類似した症状は他の喉頭疾患でもみられることから、これらをまとめてクループ症候群と呼ぶことがある。この中では急性喉頭蓋炎が最も重要である。前述の症状に加えて、突然の高熱、嚥下痛、流涎などを伴い、突然呼吸停止することもある。したがって、急性喉頭蓋炎を疑った場合には、できるだけ侵襲的な処置は避け、気道確保に努める。

2.気道異物
 ある時点から急に咳や喘鳴が始まることが特徴的である。1歳の男児に多い。異物を吸引した直後は激しく咳き込むが,まもなくすると一時的に軽減することが多い。気管支異物の可能性があれば,吸気位と呼気位での胸部X線検査を行い,局所的な過膨張所見を探す。診断の確定と治療には気管支内視鏡が必要である。

おわりに
 咳は生体の防御反応のひとつである。したがって、咳が出ているというだけで、漫然と鎮咳薬や気管支拡張薬、吸入ステロイドなどを投与すべきではない。まずどのような咳かを十分に検討し、それに見合った処方や対応を行うことが大切である。それでも診断や治療に難渋する場合には、積極的に専門医に紹介すべきである。


小児の腹痛 [薬学の時間]
2012/04/13(金) 22:18

薬学の時間
2011年6月9日放送分
小児の腹痛
順天堂大学医学部 小児科
幾瀬圭
  
□はじめに
今日は小児の腹痛をテーマにお話しします。今日みなさんに知っていただきたいことは、様々な診断の根本に腹痛という症状が存在していること、そして腹痛をいかに抑えるかではなく、腹痛の原因をいかに正確に把握し治療するかが重要であるということです。今日は私たち小児科医が日々の診療の中で何を考え、何に注意し、どのように腹痛の原因を判断しているのか、また薬剤を使うときにはどのような注意をはらっているか、そういった部分を解説していきたいと考えています。普段の診察の裏側を知っていただく機会になれば幸いです。それでは本題に入っていきたいと思います。

日々の診療の中で腹痛は最も一般的な症状の一つですが、年齢ごとに症状の訴え方や原因が異なる小児においては、正確な診断をすることが難しい症状の一つでもあります。原因の重症度も様々であり、命に関わるような病気が隠れていることもあるため、腹痛を診察する際にはより一層の注意が求められます。その時に忘れてはならないことは、腹痛の原因は全身に隠れているということです。お腹の病気だけとは限りません。胸の病気やストレスなどの精神的な負担、時には血液の病気をはじめとする全身性疾患が腹痛を引き起こすこともあります。また、腹痛の期間も原因検索には重要です。急な腹痛は急性腹痛とよばれ、その中でも全身状態の悪化を伴い、緊急の処置や手術を必要とする場合を急性腹症といいます。急性腹症の原因としては外傷に伴う内臓の損傷や急性虫垂炎、腸重積などが挙げられます。一方、間欠的で3か月以上続くような腹痛は反復性腹痛と定義されています。

年齢、症状、腹痛の場所や腹痛の期間など、腹痛に関する情報を隈なく丁寧に収集していくことで、診断は正確性を増すといえるでしょう。反対に、無暗に症状を隠してしまうような治療は診断を遠ざけ、結果的に症状の悪化を招く危険性があるため避けなければなりません。特に小児では本人が症状を表現できないケースが多くみられるため、症状を抑える薬剤の処方を敢えて避けることもあります。
それでは実際に診断に至るプロセスを解説していきましょう。

□診察
最初は診察についてです。患者さんの診察は診察室の扉が開かれたその瞬間から始まっています。まずは診察室に入ってくる姿勢や自分で歩けるかどうか、顔色の良し悪しなどを観察します。その状態に体温、脈拍数、呼吸数、血圧などを加味して全身状態を把握し、緊急の処置が必要かどうかを判断します。状態が許せるようならば引き続いて腹痛などの症状の経過を聞いていきます。小児の診察において最も重要となるのは問診であり、情報を迅速にもれなく収集していくことが診断の鍵と考えます。
診察の順序は問診、視診、聴診、打診、触診というように苦痛の少ないものから進めていくことが一般的です。

<問診>
まず問診に関してお話します。問診とは患者さんの訴えや経過をきいて、診断をすすめることを言います。しかし小児の場合は本人が症状を正確に伝えられるとは限りません。新生児期は不機嫌、激しい啼泣、哺乳の拒否などがあった場合に腹痛の存在を疑います。顔色不良や血圧低下などのショック症状を示すお子さんもいます。3か月以後では苦しく辛そうな表情などが腹痛の訴えにつながります。このような様子も子供たちにとっては列記とした腹痛の訴えであるため、漏れなくキャッチしなければなりません。2歳を過ぎると自分の言葉で説明できることもありますが、「ポンポンが痛いの?」などの問いかけに対して、腹痛がなくても頷いてしまう場合があるため判断が難しくなることもあります。そのため、つねに診察所見や随伴症状から腹痛が有るのか無いのかを客観的に判断する目も必要になるのです。お子さんの様子を注意深く観察しながら、付き添いの方からの情報も併せて診断を進めて行きます。

問診にて必ず注意する点
問診での確認事項
1 年齢
2 身長、体重
3 いつから腹痛が始まったのか
4 腹痛の程度(食事や睡眠、歩行などの可否など)
5 腹痛の部位
6 腹痛の経過(痛みの増減の有無や持続時間、食事や曜日との関係など)
7 随伴症状の有無(嘔吐、下痢、血便や消化器疾患以外の症状など)
8 発達歴
9 治療歴(鎮痙剤や鎮痛剤の内服歴など)
10 既往歴(アレルギーや分娩出生歴、手術歴など)
11 栄養や食事の内容
12 家族内に同様の症状や消化器疾患の既往がみられるか


<視診>
次に、目で見る視診も診断には重要です。正確な診断を行うためには全身を隈なく観察し、皮疹や出血斑、手術の痕がないかどうかを見逃してはなりません。また鼠径ヘルニア嵌頓や精巣捻転を見逃さないためには精巣や鼠径部を診察することが重要です。あまりに腹痛が強い場合には、陰部の症状を伝え損なってしまうこともあります。そのため羞恥心の強い年齢の患者であっても診察を怠ってはなりません。

<聴診>
次は聴診についてです。腹痛の原因にもなる肺炎や気管支喘息の診断に呼吸音の聴診は大変に重要です。また腹部の聴診で聞かれる腸蠕動音は腸の動きを教えてくれます。腸炎やイレウスでは蠕動音が亢進することが多いです。また特徴的な金属音が聞かれれば機械的イレウスを考えます。蠕動音が低下した場合は麻痺性イレウスの存在が疑われます。しかし腸炎などでも低下することがあるため、他の診察所見と併せて病状を判断する必要があります。

<打診>
腹部を指の上から叩いて診察する打診では次のことがわかります。高い鼓音は腸管ガスの貯留を、にぶく低い濁音は腫瘤の存在や腹水の貯留を示しています。打診からそれぞれの程度や分布を探ります。

<触診>
最後に触診についてお話します。子供が緊張しないような診察環境を作り、痛みの場所を正確に把握することが大切です。手や聴診器が冷たいと刺激になり、腹部の筋肉が緊張を強めるため、それぞれを温めて診察に臨みます。まずは痛くないであろうところから優しく触診し、痛いところはできる限り最後に診察します。触診するときに、病気と無関係で簡単に答えられるような会話をすることで子供の緊張を解く方法もあります。痛みの評価は押す時の表情に注目し、顔のしかめ方から痛みの程度を把握するよう努めます。圧痛は自発痛と比較し病変部位と一致することが多いため重要です。

□診断と検査
診察が終わると、その所見から考えられる疾患を考え、検査を追加していきます。全身状態不良やもんどり打つような激腹痛、腹膜炎を疑う腹膜刺激症状、胆汁性や血性の嘔吐などを認めた場合には、急性腹症を考え、直ちに血液検査と腹部X線検査を施行し、必要に合わせて腹部超音波検査、腹部CT検査、注腸造影検査、便検査などを追加します。急性腹症に対しては手術の準備も必要なため、小児外科医師への相談もこの時点で行うようにしています。お腹の以外の原因を明らかにする検査としては尿検査、溶連菌迅速検査、妊娠反応、胸部X線検査などがあります。
3か月以上症状が続く反復性腹痛の場合は臓器の異常を伴うかどうか判断することが重要です。臓器の異常を伴う腹痛を器質性腹痛、目にみえるような異常がない腹痛を機能性腹痛と呼びます。どちらに該当するかを鑑別するためには内視鏡検査などを実施して、まずは臓器の異常を否定することが必要になります。

alarm symptoms
 右上腹部または右下腹部の痛み
 嚥下障害
 遷延性嘔吐
 消化管出血
 夜間の下痢
 炎症性腸疾患、消化性潰瘍、celiac病の家族歴
 睡眠を障害する痛み
 関節炎
 肛門部病変
 体重増加不良
 体重減少
 成長障害
 思春期発来遅延
 不明熱


また、繰り返す腹痛の原因として、小児であってもヘリコバクター・ピロリ菌の感染症は見逃せません。日本においてピロリ菌の感染は小児の約8%に認められるため、約10~20人に1人のこどもが感染していることになります。ピロリ菌は小児においても時に胃炎や潰瘍の原因となるため、胃炎や消化性潰瘍や胃癌、ピロリ菌感染症を患う家族がいる際には、尿素呼気試験もしくは便中抗原検査を施行して感染の有無を確認し、陽性の場合は専門医療機関にて内視鏡検査と薬剤感受性試験を実施し除菌することが望ましいといえます。
年齢や部位、経過ごとの鑑別疾患
部位による腹痛の鑑別
心窩部) 胃十二指腸潰瘍、急性胃炎、胃食道逆流症、食道炎、急性虫垂炎、膵炎、肺炎、胸膜炎、喘息発作、血管性紫斑病、アセトン血性嘔吐症

右季肋部) 胆石、胆嚢炎、肝炎、胃十二指腸潰瘍、胃炎、腹膜炎、肺炎、胸膜炎、喘息発作、血管性紫斑病、アセトン血性嘔吐症

左季肋部) 胃十二指腸潰瘍、食道炎、脾損傷(出血、梗塞)、肺炎、胸膜炎、喘息発作、血管性紫斑病、アセトン血性嘔吐症

右側下腹部) 急性虫垂炎、尿路結石、Meckel憩室炎、腎盂腎炎、腸間膜リンパ節炎、卵巣嚢腫茎捻転、水腎症、炎症性腸疾患、卵管炎、鼠径ヘルニア嵌頓、腸重積

臍周囲) 急性腸炎、腹膜炎、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群、腹性てんかん、便秘、アセトン血性嘔吐症、起立性調節障害、血管性紫斑病

左側下腹部) 急性腸炎、尿路結石、腎盂腎炎、卵巣嚢腫茎捻転、水腎症、卵管炎、鼠径ヘルニア嵌頓、便秘

下腹部) 急性腸炎、便秘、膀胱炎、S状結腸捻転、卵管炎、炎症性腸疾患、過敏性腸症候群


年齢別にみた急性腹痛の主な原因
新生児期/ 壊死性腸炎、胃軸捻転、消化管穿孔
乳幼児期(0~2歳)/ 胃腸炎、便秘、腸重積、尿路感染症、胆道拡張症、肺炎、胸膜炎、乳児疝痛、食物アレルギー、外傷、水腎症、腹膜炎、急性虫垂炎、Meckel憩室炎、胃腸捻転症、鼠径ヘルニア嵌頓、Hirschsprung病、消化性潰瘍、糖尿病性ケトアシドーシス

幼児~学童期(2~6歳)/ 胃腸炎、尿路感染症、便秘、肺炎、胸膜炎、咽頭扁桃炎、喘息発作、血管性紫斑病、急性虫垂炎、小腸軸捻転、絞扼性イレウス、外傷、腸重積、肝炎、胆嚢炎、胆道拡張症、膵炎、Meckel憩室炎、水腎症、腎尿管結石、腹膜炎、腸間膜リンパ節炎、消化性潰瘍、鼠径ヘルニア嵌頓、鎌状赤血球症、精巣捻転、腹部腫瘤、糖尿病性ケトアシドーシス

学童期(6~15歳)/ 胃腸炎、尿路感染症、便秘、生理痛、外傷、肺炎、胸膜炎、喘息発作、血管性紫斑病、肝炎、胆嚢炎、胆道拡張症、膵炎、消化性潰瘍、急性虫垂炎、腹膜炎、腸間膜リンパ節炎、炎症性腸疾患、腎尿管結石、鎌状赤血球症、卵巣嚢腫茎捻転、糖尿病性ケトアシドーシス、妊娠、精巣捻転


反復性腹痛の原因疾患
機能性腹痛/ 乳児コリック、機能性ディスペプシア、過敏性腸症候群、腹性片頭痛、機能性腹痛(狭義)、反復性臍疝痛、周期性嘔吐症、起立性調節障害

器質性腹痛 消化器系/ 慢性便秘症、胃食道逆流症、消化性潰瘍、H.pylori感染症、Crohn病、好酸球性胃腸炎、潰瘍性大腸炎、腸管Behçet、腸間膜リンパ節炎、上腸間膜動脈症候群、Meckel憩室炎、消化管重複症、反復性腸重積、腸間膜嚢腫、腸回転異常症、celiac病、寄生虫症、乳糖不耐症、術後腸管癒着、十二指腸壁内血腫(外傷)
器質性腹痛 肝胆膵系/ 胆石症、総胆管嚢腫、膵胆管合流異常、反復性膵炎、仮性膵嚢胞(外傷)、Gilbert症候群
器質性腹痛 泌尿生殖器系/ 尿路感染症、尿路結石、間欠性水腎症、月経困難症、子宮内膜症、性感染症、膣閉鎖
 その他 食物アレルギー、アセトン血性嘔吐症、血管性紫斑病、膠原病、急性間欠性ポルフィリン症、腹性てんかん、鉛中毒


□薬剤使用時に注意すること
 最後に薬剤を使用する際に注意していることをお話します。冒頭でお伝えしたように、症状を無暗に抑えてしまうことは結果的に症状の悪化につながることがあります。このような悪化は、症状が隠れてしまうことで診断がより困難になってしまうことや、薬剤の効果が強すぎることで原疾患が重症化してしまうことによります。「下痢がひどくて受診したのに下痢止めは処方されなかった。」こういったケースの背景には更なる悪化を防ぐことを目的として、症状を緩和する薬剤を敢えて処方しない場合もあるのです。実際に、腹痛を抑える臭化ブチルスコポラミンやペンタゾシンなどの鎮静薬は症例を限って、細心の注意を払った上で使用しています。また一般的な鎮痛薬であるNSAIDsなどはお腹の痛みに効果を示さないケースが多いため処方することは少なくなります。
薬剤の剤形を症状に合わせて調整することも、小児においては大切です。腹痛や嘔吐が強く、内服が困難な場合には乳幼児ではなくとも坐薬を用いることがあります。また内服量を少なくすませるように内服の開始時期をずらすこともあります。苦味を持つ薬剤を食材と併せて内服させる場合にも、胃腸炎などが考えられる症例では、できる限り患部への負担が少ない食材を薦めるようにしています。

□おわりに
以上で、今回の内容は終わりになります。専門的な内容が多くなってしまいましたが、腹痛を訴えるお子さんを目にした際や、薬剤処方時にお役立ていただけることを願っています。