カリウム製剤のハイリスク薬管理 [薬学の時間]
2013/08/24(土) 23:43

薬学の時間
2012年3月13日放送分
カリウム製剤のハイリスク薬管理
愛媛大学大学院教授 
荒木博陽(ひろあき)

カリウム補給注射剤は各種疾患あるいは患者の状態におけるカリウムの補給用として汎用される薬剤ですが、カリウム補給注射剤を希釈しないで急速静注した事による死亡例が過去に多く報告され、その取り扱いには特に注意が必要な医薬品です。そもそもカリウムについての知識を明確にしておけば防げたはずの事故が多かったように思います。

カリウムは細胞内における主要電解質であり、生体内においては細胞膜電位の形成、酸-塩基平衡の調節、浸透圧の維持などに関与し、神経の興奮や筋肉などの各組織の細胞内代謝に重要な役割を持っています。現在カリウム製剤は医薬品としては電解質補液の補正用として、体内の水分、電解質の不足に応じて輸液に添加して投与されています。さらに、長引く嘔吐状態、長期間の経鼻管吸引、重症の下痢、ステロイドや利尿剤の使用などによってカリウムの過剰排泄が起こり、結果として低カリウム血症の状態におちいることがあります。そのような低カリウム血症では臨床症状として、筋肉の脆弱、筋力の低下、倦怠感、脱力感、四肢麻痺など様々な症状がみられます。このようなケースにおいてカリウムの補充がなされます。経口投与が可能であれば経口投与にて補充することが望ましいのですが、経口投与が難しい場合には経静脈的に投与され、補充することがあります。

正常な状態では細胞内にカリウムは多く、細胞外には少ない状況です。血漿中のカリウム濃度の正常値は1Lあたり3.5~5.0mEqであり、細胞内はその30倍程度高いとみられます。すなわち、細胞外のカリウム濃度は細胞内に比べて極めて少ない状況です。すべての細胞は細胞膜をはさんで細胞の中と外とでイオンの組成が異なっていて、この電荷を持つイオンの分布の差が、電位の差をもたらします。外からカリウムを注射したことにより細胞外のカリウム濃度が増加しますと、細胞内外の電位差が小さくなり、たとえば心臓の洞房結節の興奮の伝達を遅らせることになります。そうなると、心臓の働きが悪くなり、死に至ることもあるわけです。生体内に普遍的にある電解質ではありますが、投与方法によっては生命危機を及ぼす作用があるために医薬品として特に適正使用が推奨されている薬剤です。今回はその使用上の注意について述べたいと思います。

生体内の電解質を補正する目的で使用する薬剤には主にナトリウム・マグネシウム・カリウムがあります。輸液療法の対象は脱水症、電解質異常症、腎不全、副腎不全、熱傷など多様ですが、電解質を勘案することは輸液療法を行う上で重要であり、ナトリウムやカリウムの数値異常がみられた場合、補正を行うことも必要です。この中でも特にカリウムは先ほど述べましたような理由で投与速度や希釈濃度によっては心停止などの重篤な副作用を生じる可能性がありますので、管理に十分な注意が必要です。

ところで、カリウム製剤は生体内の電解質の補正を目的として輸液などと混合して使用することを目的とされていますので、血漿中濃度と比べて約100倍近い高い濃度になっています。従って、このカリウム製剤が万が一、原液のまま投与されますと、通常存在していない細胞外に大量のカリウムが存在することとなり、細胞内外のカリウムバランスが崩れ、心筋の収縮に異常をきたします。そして、結果的には不整脈・心停止などを引き起こすことになります。高濃度カリウム製剤につきましてはこれまでに各地で起こった重大な医療事故の教訓から、2004年に厚生労働省・日本医療機能評価機構から患者安全緊急警報が出されています。それによると、「高濃度カリウム製剤に関する事故は、高濃度カリウム製剤をボトル内へ混注するという指示に対し、誤って急速静注したことが原因とされている」とし、日本医療機能評価機構認定患者安全推進協会は高濃度カリウム製剤の事故を防止するために2003年10月28日に「緊急提言」を出していましたが、同様な事故が発生したことは大変残念として、緊急提言を改めて「患者安全緊急警報」として配信しています。このような事故や警報を受けて、全日本民医連ではアンプル型高濃度カリウム製剤の病棟常備を全面廃止するように緊急提起をしました。これは、1998年に米国で医療施設評価合同委員会から高濃度カリウム製剤の取り扱いに対する警報が出され、病棟から高濃度カリウム製剤が撤去された結果、米国の高濃度カリウム製剤急速静注による死亡事故が激減したという報告を受けての措置と思われます。

続いて、カリウム製剤の薬学的管理について述べたいと思います。カリウム製剤の薬学的管理において重要な確認ポイントは、投与濃度・投与速度・1日投与量の3点です。まず、現場で確認する際には単位の区分、すなわち1Lあたりなのか、あるいは1mLあたりなのか、に注意する必要があります。現在多くのカリウム製剤では電解質組成が20mL に20mEq含有されている製剤ですが、上述したように1Lあたりに換算すると1000mEqと非常に濃い濃度となってしまいますので注意する必要があります。カリウムイオンとしては1mLあたり0.04mEqの濃度以下に希釈して、使用することが注意事項として添付文書には記載されています。すなわち1Lあたり40mEqに相当します。また、高カリウム血症を起こすことがあるので、投与速度はカリウムイオンとして1時間に20mEqを超えない速度で投与することも大事です。併せて1日の投与量としては100mEqを超えないことも重要です。

この20mL に20mEq含有されている製剤を規定通りに投与する例として以下のような調製及び投与方法が考えられます。カリウム20mL に20mEq含有されている製剤2本、すなわち40mEqを1.000mLへ希釈、すなわち25倍に希釈し、1分間に8mLの速度で投与すれば、血中には1時間に20mEq以下で点滴することができます。目標濃度のカリウム輸液を調製するときの輸液量や添加するカリウム製剤の液量を早見表などの形式で整理することも事故防止には役立つのではないでしょうか。

薬剤の利便性を考慮されたプレフィールドシンリジ製剤も存在します。そのまま三方活栓や側管などに直接接続出来ないように工夫された製剤もあります。しかし、前述のとおりカリウム製剤は電解質の補正を目的としたものでありますので、血管内に直接投与してはいけないことを十分に理解してもらうことが重要です。混注の際に報告されているインシデント事例として、シンリジにセットしたカリウム製剤を別に指示された薬剤の溶解液、すなわち5%ブドウ糖液20mLなどと勘違いして、側管よりワンショット静注してしまったなどの報告があります。これなどは薬剤の準備段階に発生している事例です。カリウムの薬効としてではなく、調製の方法や製剤の特徴からインシンデント発生の可能性がありうることを認識しておく必要があります。現在はこのように希釈されずに使用されることを防ぐ目的で、製剤自体のラベルなどに様々な注意喚起の文字が印字されていますが、シリンジにセットした後の段階であると、シリンジ自体は製剤と離れて動くことが多く、製剤量を考慮しても他の希釈用の溶解液などと取り間違いを起こす可能性がないわけではありませんので、注意する必要があるわけです。また、混注後均一に混合されたかが確認できるように黄色に着色されている製剤もありますが、全ての製品が黄色に着色されてはいないので、「カリウム製剤は黄色に着色されている」という思い込みが取り間違いを起こす危険性を高める事になります。加えて、製品の濃度表記も統一されていないことがありますので注意が必要です。

まとめますと、カリウムは生体内に普遍的に存在する成分ですが、投与速度・濃度などを誤れば簡単に致死的な事故や副作用を招く薬品であることを再確認して管理にあたることが重要です。医療事故を防ぐために、塩化カリウムの投与法はカリウム濃度1Lあたり40mEq以下の輸液として調製したものを1分間に8mL以下で点滴静注することを厳守する必要があります。

また、電解質の補正を目的として作られているという特徴上、販売されている製剤は少量で高濃度の溶液となっています。さらに、混注や投薬の準備の際に用いる他の溶解液と液量・外観などが類似している事もあり、薬剤の取り違いにも注意が必要です。プレフィールドシリンジ製剤など過誤に配慮した製剤工夫がなされているものも出回っていますが、改めてカリウム製剤の特徴・危険性を考慮し、各自が確認を行いながら薬剤業務に当たることが重要であると思われます。