抗ヒスタミン薬服用患者への服薬指導~特に、自動車の運転に際して~ [薬学の時間]
2010/02/02(火) 00:00

薬学の時間
2010年2月2日放送分
「抗ヒスタミン薬服用患者への服薬指導~特に、自動車の運転に際して~」
東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター
サイクロトロン核医学研究部准教授
田代 学

 また今年もスギ花粉の飛散の時期がやってまいりました。今日は、アレルギーの治療に使われる抗ヒスタミン薬と自動車運転の関係について、その副作用の原因と影響の大きさ、どのように注意したらよいかについてお話しさせていただきます。

 アレルギー疾患の発生率は我が国の総人口の約3割に達しているといわれていますが、最近では花粉症に限らず、アレルギー性皮膚炎などのアレルギー疾患も増加しています。アレルギー反応においては、血液中にいる「肥満細胞」という細胞から「ヒスタミン」という物質が放出されて、ヒスタミンが「受容体」に結合することによってアレルギー反応の「連鎖反応」が引き起こされることが知られています。特にアレルギー反応では、ヒスタミンの「H1受容体」が重要な役割を果たしています。
 こうしたアレルギー疾患の治療にもっとも頻繁に使われる薬の一つが「抗ヒスタミン薬」です。抗ヒスタミン薬の効果が発揮されるメカニズムは、こうです。つまり、ヒスタミンがヒスタミンH1受容体に結合する前に、H1受容体をあらかじめ抗ヒスタミン薬でふさいでしまおうというのが主な「ねらい」です。こうすることによって、アレルギー反応を軽く抑えることができます。ところが、抗ヒスタミン薬の服用でアレルギー症状はよくなるけれど、ひどい眠気や倦怠感のような副作用が体験されることがあります。そのような状態で自動車の運転、あるいは航空機や大型機械を操縦したりすると、ちょっとした不注意から大事故を起こしてしまう危険性にさらされることになります。

 では、どうして抗ヒスタミン薬を服用すると眠気が出るのでしょうか?先ほどヒスタミンはアレルギー反応の引き金になると申しましたが、実はヒスタミンは、脳の中では全く別の役割を担っています。脳ではヒスタミンは、脳全体の神経細胞の活動をコントロールしており、睡眠と覚醒のリズムを調節したり、注意力を保つなど、様々な脳機能に関係しています。したがって、アレルギー治療のために服用したはずの抗ヒスタミン薬ですが、脳に入りますと、ヒスタミンを受け取るはずだった「H1受容体」を抗ヒスタミン薬が塞いでしまいます。その結果、脳の情報伝達に支障をきたし、覚醒状態を保っていることが難しくなるのです。このような副作用のことを「鎮静性副作用」、短くして「鎮静作用」と呼びます。
 昔からよく使われている抗ヒスタミン薬の多くは、この鎮静作用を強くもっているので、鎮静性抗ヒスタミン薬と呼ばれます。最近では脳に入りにくく、鎮静作用を低く抑さえた抗ヒスタミン薬も多く開発されています。これらは「非鎮静性抗ヒスタミン薬」と呼ばれますが、あるいは、中でもとくに脳に入りにくく鎮静作用がないものを「非鎮静性抗ヒスタミン薬」と呼んで、鎮静作用が若干ですが認められるものを「軽度鎮静性抗ヒスタミン薬」と呼ぶこともあります。こういう新しい抗ヒスタミン薬が簡単に入手できればよいのですが薬局で店頭販売されてはいないので、入手するには医師の「処方箋」が必要です。ですから、まず病院を受診していただく必要があります。その一方で、昔から使用されていた「鎮静性抗ヒスタミン薬」の多くが薬局の店頭で販売されており手軽に手に入れることができます。言い換えれば、「もしかすると危険があるかもしれない薬」のほうが、「危険が少ない薬」よりも手に入りやすいということです。普通に薬局で販売されている薬にそんなに危険なものがあるわけないだろうと思われがちですが、状況によっては危険です。鎮静性抗ヒスタミン薬の鎮静作用は、飲酒運転の場合と同じか、むしろそれ以上に運転能力を低下させてしまうこともあるといわれています。もちろん、薬の添付文書にも「服用したら運転しないように注意してください」という注意事項が記載されていますから、ご注意ください。
 一方、眠気が大したことがないからと、がんばって運転を続けた場合、ご本人の自覚が乏しいだけで、認知能力・判断力が低下している場合があり、大変危険です。
 最近では、「眠気」と「認知・判断能力の低下」を分けて考えるようになっています。自動車運転中にブレーキを踏むタイミングが遅れたり、左右の安定性を保つ能力が損なわれて蛇行運転になったり、適正な車間距離を保てずに追突しやすくなることが報告されています。このように運転の成績、パフォーマンスが低下してしまうことを「インペアード・パフォーマンス」といいますが、英語そのままではわかりにくいため、日本語も提案され、最近は「気づきにくい能力低下、能力ダウン」などのように呼ばれることもあります。

 次に、以前私たちが行った測定結果をご紹介します。実際の野外での自動車運転に関する研究です。被験者の方に、三種類の薬剤を、時をかえて飲んでいただき、自動車運転に与える影響を調べました。そのうちの一つは、「鎮静性抗ヒスタミン薬」のヒドロキシジンという薬で、もう一つは「非鎮静性抗ヒスタミン薬」のフェキソフェナジンという薬で、残りは「プラセボ」でした。被験者の方には、薬を飲んでいただく前後で、コース内で運転していただき、ランプが点灯するたびに即座にブレーキペダルを踏んでいただきました。ランプが点灯してからブレーキペダルが実際に踏まれるまでの「時間」を「ブレーキ反応時間」として測定しました。測定の結果、鎮静性抗ヒスタミン薬を服用したときには、被験者のブレーキ反応が遅れることがわかりました。一方、非鎮静性抗ヒスタミン薬服用時には、遅れはプラセボ服用時と差がありませんでした。携帯電話を用いた通話についても調べました。携帯電話で通話しながら運転すると、たとえハンズフリーの状態であっても、会話の内容に注意が奪われると運転の反応が大きく遅れることがわかりました。そして、鎮静性抗ヒスタミン薬を服用しているときには、そのような影響が増幅されることもわかりました。
 また鎮静作用の影響の大きさには個人差も大きく、一部のドライバーでは反応の遅れが被験者全員の平均値の2~3倍になっている人もいました。そのようなドライバーが無理して運転を続けた際に事故が発生する可能性が高いことを意味しています。ですが、現時点では、事故を起こしやすい方をあらかじめ予測することはできませんので、服用された場合には運転は控えるようにしていただきたいと思います。

 もうひとつの実験データをご紹介します。自動車運転中の脳活動を調べた研究です。被験者の方に鎮静性抗ヒスタミン薬(d-クロルフェニラミン)を内服してもらい、自動車運転シミュレーションのソフトウェア上で運転をしていただきました。その結果、眠気の強さは、プラセボを服用した時と鎮静性抗ヒスタミン薬を服用したときで差はなかったにもかかわらず、鎮静性抗ヒスタミン薬の服用後に蛇行運転の回数が増えており、運転成績は鎮静性抗ヒスタミン薬を服用したときの方が悪くなっていました。同時にPET(ペット)という装置を用いて運転中の脳の血流変化を調べました。脳画像を解析したところ興味深いことがわかりました。「後頭葉の視覚野」や「頭頂葉」の活動が薬の影響で抑制されているらしいことがわかりました。こうした脳の部位は、先行車や対向車、歩行者など障害物を視覚的に認知するために重要ですし、自分に向かって近づいてくる物体の動きの方向や自分との距離をはかるために重要です。鎮静性抗ヒスタミン薬による運転能力低下のメカニズムの一部がわかりました。

 以上のこうした研究から言えることを以下にまとめさせていただきます。
1. 「自分の眠気は車を運転できないほどではない」とご本人が感じていても、脳の処理能力が大きく低下している場合もあり、事故をおこす危険性があります。
2. したがいまして、特にこの時期、アレルギー症状が強く花粉症の薬を飲まずにはいられない、しかし、自動車運転をやめるわけにはいかない、という方は、ぜひ、病院の耳鼻科や内科、アレルギー科を受診して、鎮静作用がない抗ヒスタミン薬を処方してもらうようにしていただきたいと思います。
3. 最後に、服薬指導をされる先生方へのメッセージです。仮にドライバーが事故を起こしてしまった場合、もちろんドライバーの責任がもっとも大きいですが、最近では、薬剤の処方あるいは販売の際に、添付文書に記載された重要な内容を説明していなかった場合には、後からその責任を追及される場合もありえますので、事故予防という観点からもぜひともご注意いただきたいと思います。


花粉症の舌下免疫療法について [薬学の時間]
2009/12/15(火) 00:00

薬学の時間
2009年12月15日放送分
「花粉症の舌下免疫療法について」
福井大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教授
藤枝 重治

 スギ花粉症は、2月~4月に発症するアレルギー疾患です。スギの花粉を吸い込むことによって発作的に反復するくしゃみ、鼻水、鼻づまり、目の痒み、涙目、鼻・のどの痒み、咽頭違和感、咳、顔面皮膚の痒みなどの多彩な症状を示します。2006年から2008年に我々が福井県で調べたところ、20歳から50歳までの成人において、30~40%がスギ花粉症の症状を発症していることがわかりました。また発症はしていなくてもIgE抗体というスギ花粉と反応する物質をすでに体の中に持っている人は、何と60%に及ぶことがわかりました。


学薬アワー「ダニの基礎知識」 [薬学の時間]
2009/07/23(木) 00:00

薬学の時間
2009年7月23日放送分
学薬アワー「ダニの基礎知識」
日本学校薬剤師会常務理事
畑中 範子

ダニとは?
 ダニは、系統発生学的には昆虫よりクモやサソリに近い生物で、少なくとも20,000種以上が確認されており、地球上のあらゆるところに生息していると言われています。一般住宅で普遍的に見られるのは20~40種程度です。日本では、すべてをひっくるめて「ダニ」と呼称していますが、英語では、大型をTick(ティック)、小型をMites(マイツ)と言い、屋内生息性ダニは、いずれも「House Dust Mite(ハウスダストマイト)」と呼びます。


学薬アワー「有害な真菌(かび)について」 [薬学の時間]
2009/05/26(火) 00:00

薬学の時間
2009年5月26日放送分
学薬アワー「有害な真菌(かび)について」
日本学校薬剤師会常務理事
横田 勝司

 室内空気汚染物質の一つとして浮遊微生物が挙げられますが、これにはレジオネラや結核などの細菌、アレルギーの原因となる真菌並びに感冒やインフルエンザの病原性ウイルスなどが存在します。本日は、これらの室内空気汚染物質の中で、日本の気候風土に適した真菌(かび)を取り上げ、その功罪についてお話を進めてまいります。


シリーズ 重篤副作用疾患別対応マニュアル(1)薬剤性過敏症症候群 [薬学の時間]
2009/02/12(木) 00:00

薬学の時間
2009年2月12日放送分
シリーズ 重篤副作用疾患別対応マニュアル(1)
「薬剤性過敏症症候群」
愛媛大学皮膚科学教室教授
橋本 公二

DIHSは原因薬剤投与中止後も進行・再発を繰り返す特異な薬疹
 本日は、薬剤性過敏症症候群(DIHS)についてお話ししたいと思います。
 DIHSはdrug-induced hypersensitivity syndromeの頭文字をとったもので、当初hypersensitivity syndromeという名称が使われていましたが、hypersensitivity syndromeの名称があいまいであること、薬剤性ということを明確にしようということ、またヒトヘルペスウイルス6(HHV-6)の再活性化を伴うという疾患概念を強調しようということ、などの理由により8年ほど前に、我々が提唱したものです。現在では本邦のみならず、海外でも使われるようになっています。


学薬アワー「アレルギー症状の増加とその環境要因」 [薬学の時間]
2008/03/27(木) 21:32

薬学の時間
2008年3月27日放送
学薬アワー「アレルギー症状の増加とその環境要因」
日本学校薬剤師会情報委員会委員長
木全 勝彦

子供たちのアレルギー疾患が増えている
 平成18年6月に愛知県内の人口約15万人の市において、市内小中学校25校の児童生徒1万3,635人(有効回答数:1万1,173人)を対象として実施した「アレルギー疾患について」のアンケート調査の結果をもとに、「児童生徒のアレルギー疾患の増加と環境要因」について報告させていただきます。


食物依存性運動誘発アナフィラキシー [薬学の時間]
2007/10/16(火) 00:00

薬学の時間
2007年10月16日放送
「食物依存性運動誘発アナフィラキシー」
神戸大学大学院医学系研究科内科系講座皮膚科学分野准教授
堀川 達弥

「食物の摂取」と「運動」の組み合わせで発症する
 食物アレルギーには様々なタイプのものがありますが、大きく分けると即時型アレルギーと遅延型アレルギーがあります。遅延型アレルギーでは、食物を食べた翌日か翌々日に湿疹が現れます。一方、即時型アレルギーは原因食物を食べた後に通常は1時間以内、早ければ数分で蕁麻疹が出たり、眼瞼や唇の腫脹が見られます。症状が強い場合は腹痛、嘔吐、呼吸困難、血圧低下、意識消失などの様々な臓器の症状が見られることがありますが、このような多数の臓器症状が見られる場合をアナフィラキシーといいます。即時型アレルギーはIgE抗体が原因抗原と結合することによって発症します。つまり、食物による即時型アレルギーでは原因となる食物に対する特異IgE抗体が血清中に見つかります。IgE抗体は肥満細胞の細胞膜上にあるIgEの受容体と結合した状態にあります。食物抗原が隣同士のIgEの橋渡しをするように結合すると、これを架橋といいますが、肥満細胞が刺激されて脱顆粒を起こします。脱顆粒によってヒスタミンなどのケミカルメディエータが遊離すると、蕁麻疹やアナフィラキシーを引き起こします。つまり抗原がとなりあったIgEの橋渡しをすることは症状が出現するためには重要であるわけです。


機能性食品とアレルギー [薬学の時間]
2007/10/02(火) 00:00

薬学の時間
2007年10月2日放送
「機能性食品とアレルギー」
大阪大学大学院医学系研究科呼吸器・免疫アレルギー内科学講座准教授
田中 敏郎

機能性食品とアレルギーの関係は研究途上
 気管支喘息、花粉症、アトピー性皮膚炎などのアレルギー疾患がこの数十年で増加しています。これは世界的な傾向にあり、オーストラリアや北欧では、思春期における喘息の有症率が30%に達しているとの報告もあります。日本においても、スギ花粉の曝露によりアレルギー性鼻炎が発症するというスギ花粉症が初めて報告されたのは1960年代半ばでしたが、約40年経たいま、スギ花粉に対してIgE抗体を有する、いわば感作されている予備群が国民の50%、また有病率は16%に至っています。いまや国民の3分の1が、気管支喘息、アレルギー性鼻炎、アトピー性皮膚炎のいずれかの、もしくはこれらの病気を合併して悩んでいる状況にあります。アレルギー疾患による日常生活の支障度また社会的損失は莫大なものとなっており、アレルギーの増加の原因と発症を予防する手段の開発は、急務の課題です。


化学物質過敏症 [薬学の時間]
2007/07/19(木) 00:00

薬学の時間
2007年7月19日放送分
「化学物質過敏症」
国立病院機構相模原病院副臨床研究センター長
長谷川 眞紀

化学物質過敏症とシックハウス症候群は異なる疾患概念である
 化学物質過敏症(Multiple Chemical Sensitivity-MCS、あるいはCS)は、1987年、Cullenにより「大量の化学物質に暴露されたあと、あるいは長期慢性的に化学物質に暴露されたあと、次の機会に通常ではなんら影響のないごく低濃度の同種あるいは多種類の化学物質に暴露されたとき、多臓器にわたって様々な不快な症状を呈する疾患」として提唱されました。その後1999年のコンセンサスで、①症状の再現性があること、②微量の化学物質に反応すること、③関連性のない多種類の化学物質に反応すること、④原因物質の除去で改善、あるいは治癒すること、⑤慢性的状態であること、⑥症状が多臓器にまたがること、の6条件を満たすものを化学物質過敏症とするとされました。しかしこのコンセンサスに従っても、その症状は多臓器にわたり、不定愁訴に近く、その訴えを裏付ける客観的所見に乏しいため、診断に苦慮することが少なくありません。