学薬アワー「花粉症について」 [薬学の時間]
2010/05/01(土) 13:04

薬学の時間
2010年3月30日放送分
学薬アワー「花粉症について」
秋田県学校薬剤師会常務理事
鳥海 良寛

 「花粉症」という病名をいえば、概要を判断することが出来るでしょう。特に顔面の近位にある粘膜においてアレルギー反応が起こってきますので、身体部位ごとにアレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、アレルギー性咽頭炎、気管支ぜんそくなどが単独でまたは複合して起こってくる疾病といえます。それでは、学校薬剤師として保健指導にあたる時に必要になる「花粉症」の知識をお話しいたします。


抗ヒスタミン薬服用患者への服薬指導~特に、自動車の運転に際して~ [薬学の時間]
2010/02/02(火) 00:00

薬学の時間
2010年2月2日放送分
「抗ヒスタミン薬服用患者への服薬指導~特に、自動車の運転に際して~」
東北大学サイクロトロン・ラジオアイソトープセンター
サイクロトロン核医学研究部准教授
田代 学

 また今年もスギ花粉の飛散の時期がやってまいりました。今日は、アレルギーの治療に使われる抗ヒスタミン薬と自動車運転の関係について、その副作用の原因と影響の大きさ、どのように注意したらよいかについてお話しさせていただきます。

 アレルギー疾患の発生率は我が国の総人口の約3割に達しているといわれていますが、最近では花粉症に限らず、アレルギー性皮膚炎などのアレルギー疾患も増加しています。アレルギー反応においては、血液中にいる「肥満細胞」という細胞から「ヒスタミン」という物質が放出されて、ヒスタミンが「受容体」に結合することによってアレルギー反応の「連鎖反応」が引き起こされることが知られています。特にアレルギー反応では、ヒスタミンの「H1受容体」が重要な役割を果たしています。
 こうしたアレルギー疾患の治療にもっとも頻繁に使われる薬の一つが「抗ヒスタミン薬」です。抗ヒスタミン薬の効果が発揮されるメカニズムは、こうです。つまり、ヒスタミンがヒスタミンH1受容体に結合する前に、H1受容体をあらかじめ抗ヒスタミン薬でふさいでしまおうというのが主な「ねらい」です。こうすることによって、アレルギー反応を軽く抑えることができます。ところが、抗ヒスタミン薬の服用でアレルギー症状はよくなるけれど、ひどい眠気や倦怠感のような副作用が体験されることがあります。そのような状態で自動車の運転、あるいは航空機や大型機械を操縦したりすると、ちょっとした不注意から大事故を起こしてしまう危険性にさらされることになります。

 では、どうして抗ヒスタミン薬を服用すると眠気が出るのでしょうか?先ほどヒスタミンはアレルギー反応の引き金になると申しましたが、実はヒスタミンは、脳の中では全く別の役割を担っています。脳ではヒスタミンは、脳全体の神経細胞の活動をコントロールしており、睡眠と覚醒のリズムを調節したり、注意力を保つなど、様々な脳機能に関係しています。したがって、アレルギー治療のために服用したはずの抗ヒスタミン薬ですが、脳に入りますと、ヒスタミンを受け取るはずだった「H1受容体」を抗ヒスタミン薬が塞いでしまいます。その結果、脳の情報伝達に支障をきたし、覚醒状態を保っていることが難しくなるのです。このような副作用のことを「鎮静性副作用」、短くして「鎮静作用」と呼びます。
 昔からよく使われている抗ヒスタミン薬の多くは、この鎮静作用を強くもっているので、鎮静性抗ヒスタミン薬と呼ばれます。最近では脳に入りにくく、鎮静作用を低く抑さえた抗ヒスタミン薬も多く開発されています。これらは「非鎮静性抗ヒスタミン薬」と呼ばれますが、あるいは、中でもとくに脳に入りにくく鎮静作用がないものを「非鎮静性抗ヒスタミン薬」と呼んで、鎮静作用が若干ですが認められるものを「軽度鎮静性抗ヒスタミン薬」と呼ぶこともあります。こういう新しい抗ヒスタミン薬が簡単に入手できればよいのですが薬局で店頭販売されてはいないので、入手するには医師の「処方箋」が必要です。ですから、まず病院を受診していただく必要があります。その一方で、昔から使用されていた「鎮静性抗ヒスタミン薬」の多くが薬局の店頭で販売されており手軽に手に入れることができます。言い換えれば、「もしかすると危険があるかもしれない薬」のほうが、「危険が少ない薬」よりも手に入りやすいということです。普通に薬局で販売されている薬にそんなに危険なものがあるわけないだろうと思われがちですが、状況によっては危険です。鎮静性抗ヒスタミン薬の鎮静作用は、飲酒運転の場合と同じか、むしろそれ以上に運転能力を低下させてしまうこともあるといわれています。もちろん、薬の添付文書にも「服用したら運転しないように注意してください」という注意事項が記載されていますから、ご注意ください。
 一方、眠気が大したことがないからと、がんばって運転を続けた場合、ご本人の自覚が乏しいだけで、認知能力・判断力が低下している場合があり、大変危険です。
 最近では、「眠気」と「認知・判断能力の低下」を分けて考えるようになっています。自動車運転中にブレーキを踏むタイミングが遅れたり、左右の安定性を保つ能力が損なわれて蛇行運転になったり、適正な車間距離を保てずに追突しやすくなることが報告されています。このように運転の成績、パフォーマンスが低下してしまうことを「インペアード・パフォーマンス」といいますが、英語そのままではわかりにくいため、日本語も提案され、最近は「気づきにくい能力低下、能力ダウン」などのように呼ばれることもあります。

 次に、以前私たちが行った測定結果をご紹介します。実際の野外での自動車運転に関する研究です。被験者の方に、三種類の薬剤を、時をかえて飲んでいただき、自動車運転に与える影響を調べました。そのうちの一つは、「鎮静性抗ヒスタミン薬」のヒドロキシジンという薬で、もう一つは「非鎮静性抗ヒスタミン薬」のフェキソフェナジンという薬で、残りは「プラセボ」でした。被験者の方には、薬を飲んでいただく前後で、コース内で運転していただき、ランプが点灯するたびに即座にブレーキペダルを踏んでいただきました。ランプが点灯してからブレーキペダルが実際に踏まれるまでの「時間」を「ブレーキ反応時間」として測定しました。測定の結果、鎮静性抗ヒスタミン薬を服用したときには、被験者のブレーキ反応が遅れることがわかりました。一方、非鎮静性抗ヒスタミン薬服用時には、遅れはプラセボ服用時と差がありませんでした。携帯電話を用いた通話についても調べました。携帯電話で通話しながら運転すると、たとえハンズフリーの状態であっても、会話の内容に注意が奪われると運転の反応が大きく遅れることがわかりました。そして、鎮静性抗ヒスタミン薬を服用しているときには、そのような影響が増幅されることもわかりました。
 また鎮静作用の影響の大きさには個人差も大きく、一部のドライバーでは反応の遅れが被験者全員の平均値の2~3倍になっている人もいました。そのようなドライバーが無理して運転を続けた際に事故が発生する可能性が高いことを意味しています。ですが、現時点では、事故を起こしやすい方をあらかじめ予測することはできませんので、服用された場合には運転は控えるようにしていただきたいと思います。

 もうひとつの実験データをご紹介します。自動車運転中の脳活動を調べた研究です。被験者の方に鎮静性抗ヒスタミン薬(d-クロルフェニラミン)を内服してもらい、自動車運転シミュレーションのソフトウェア上で運転をしていただきました。その結果、眠気の強さは、プラセボを服用した時と鎮静性抗ヒスタミン薬を服用したときで差はなかったにもかかわらず、鎮静性抗ヒスタミン薬の服用後に蛇行運転の回数が増えており、運転成績は鎮静性抗ヒスタミン薬を服用したときの方が悪くなっていました。同時にPET(ペット)という装置を用いて運転中の脳の血流変化を調べました。脳画像を解析したところ興味深いことがわかりました。「後頭葉の視覚野」や「頭頂葉」の活動が薬の影響で抑制されているらしいことがわかりました。こうした脳の部位は、先行車や対向車、歩行者など障害物を視覚的に認知するために重要ですし、自分に向かって近づいてくる物体の動きの方向や自分との距離をはかるために重要です。鎮静性抗ヒスタミン薬による運転能力低下のメカニズムの一部がわかりました。

 以上のこうした研究から言えることを以下にまとめさせていただきます。
1. 「自分の眠気は車を運転できないほどではない」とご本人が感じていても、脳の処理能力が大きく低下している場合もあり、事故をおこす危険性があります。
2. したがいまして、特にこの時期、アレルギー症状が強く花粉症の薬を飲まずにはいられない、しかし、自動車運転をやめるわけにはいかない、という方は、ぜひ、病院の耳鼻科や内科、アレルギー科を受診して、鎮静作用がない抗ヒスタミン薬を処方してもらうようにしていただきたいと思います。
3. 最後に、服薬指導をされる先生方へのメッセージです。仮にドライバーが事故を起こしてしまった場合、もちろんドライバーの責任がもっとも大きいですが、最近では、薬剤の処方あるいは販売の際に、添付文書に記載された重要な内容を説明していなかった場合には、後からその責任を追及される場合もありえますので、事故予防という観点からもぜひともご注意いただきたいと思います。


花粉症の舌下免疫療法について [薬学の時間]
2009/12/15(火) 00:00

薬学の時間
2009年12月15日放送分
「花粉症の舌下免疫療法について」
福井大学耳鼻咽喉科・頭頸部外科学教授
藤枝 重治

 スギ花粉症は、2月~4月に発症するアレルギー疾患です。スギの花粉を吸い込むことによって発作的に反復するくしゃみ、鼻水、鼻づまり、目の痒み、涙目、鼻・のどの痒み、咽頭違和感、咳、顔面皮膚の痒みなどの多彩な症状を示します。2006年から2008年に我々が福井県で調べたところ、20歳から50歳までの成人において、30~40%がスギ花粉症の症状を発症していることがわかりました。また発症はしていなくてもIgE抗体というスギ花粉と反応する物質をすでに体の中に持っている人は、何と60%に及ぶことがわかりました。